みすず書房

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森まゆみ『町づくろいの思想』

〈だいたい、安心して住める土地を確保しないで強引にダム建設を行うやり方こそ、明治以来の官尊民卑そのままだ。代替地の地価が過疎地にしては一坪17万円ほどというおどろくほど高い値段なのは、切り土盛り土による無理な造成に金がかかったためでもある。また水没地を法外な値段で買い上げたことも人口流出を招いた。「進むも地獄、退くも地獄」という通りである〉
(「八ッ場ダムがなくなる可能性が出てきた」090731)

〈直下型地震はかなりの確率で起こる。「災害は忘れたころにやってくる」のである。それに備えるため、できることをしなければならない。筋交いいう斜めの構造材を入れることで家の強度は増す。外壁を不燃性の高いものに替える。行き止まり路地の解消、危険なブロック塀の撤去、墨田区・向島の路地尊のような雨水利用の防災タンクの設置もおススメだ。また防災が専門の佐藤隆雄氏は、首都圏で大地震が起こったあとでも、市場原理の下に跡地をデベロッパーが買って借家人を追い出し、コミュニティを壊すような再開発を行わせない方策、高くつく上に廃棄物となるだけの応急仮設住宅でなく、コミュニティを壊さない住民主体の自主再建を応援する補助金制度、被災者生活再建支援法の整備などを提唱しておられ、賛同できる〉
(「路地のゆくえと防災」100423)

ここに引用したのはほんの一例だが、本書に収録した43編には、現代日本社会への観察と提言と実践へのヒントがいっぱいある。2011年3月11日以後を生きながら、事のありようはずっと以前から続いていること、東日本大震災と福島第一原発事故によって問題の根の深さと広がりがより明らかになったこと、だからこそ、国や自治体に問題の解決への道をゆだねるのではなく、私たち自身が社会をつくっていくのだということが、本書を読めばよく理解できる。

より身近なことでいっても、著者は照明やクーラー、電気音への違和感をしるし、電灯はじめ、BGMや着メロ、マイク使用、トイレの自動装置などの削減を本書で訴えている。東電や国が「節電節電」という前のことだ。にもかかわらず、いまや東京スカイツリーの夜間のラインアップをメディアや世間は称揚している。「私は企業戦略が、自治体や商店街の町作り戦略が、原発事故前とまるで変わらないことに驚いている」と著者はいう。

いま、福井県の大飯原発が再稼働をはじめた。国や自治体や電力会社や関連企業の思惑とはちがい、住民の多くは「原発の安全性」が神話というか、そういうものなどありえないことをわかっているはずだ。しかし、生活していくためには、許容せざるをえない。先の言葉をつかうなら「進むも地獄、退くも地獄」。そこをどう変えていくか。どう前に一歩踏みでることができるか。『町づくろいの思想』は、そのためのヒントを伝えてくれる。




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