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2013.07.25トピックス

ウォルドバウアー『食べられないために』

逃げる虫、だます虫、戦う虫  中里京子訳

地球上でもっとも精巧な生物・昆虫と捕食者の、めくるめく生存戦略。
アメリカを代表する昆虫学者が解き明かす。

「訳者あとがき」より

中里京子

本書を手にとられた方は、多少なりとも昆虫に関心を持っていらっしゃることだろう。でも訳者としては、そうでない方たちにも、ぜひ読んでいただきたいと思っている。読めば、虫に対する食わず嫌いが、きっと変わるからだ。

著者のギルバート・ウォルドバウアーはアメリカを代表する昆虫学者で、一般の読者に、楽しく、わかりやすく、昆虫の世界を紹介することに定評がある。本書のテーマはタイトルどおり、「食べられないために」戦略を駆使する昆虫と、その裏をかこうとする捕食者たちの攻防戦。その面白さ、そして専門知識がなくても楽しめるわかりやすさは、いつもとまったくかわらない。けれども本書には、それ以上のものがあるように思われる。

というのも本書では、著者が、その幅広い知識を集大成して後の世代のために残そうとしている節が随所に見うけられるのだ。昆虫や捕食者の驚くべき生態が生き生きと綴られているのは他の本とおなじだが、本書では、先人の業績の紹介から実験のやり方に至るまで、昆虫学の歴史の一端が概観できるように工夫されている。また、引用文献については、その数がまた半端ではない。とはいえ、著者は決して専門知識を押し付けるようなことはしない。本書のトーンは、あくまで今までと同様、一般の読者に、虫と捕食者のめくるめく世界を楽しんでもらおうというものだ。言い換えれば、専門知識のない読者も、昆虫に詳しい読者も、おなじように満足できる本に仕上がっている。

本書で綴られる昆虫の戦略、そして捕食者の戦略には、印象深いものが多々あるが、なかでもとりわけ面白いものを、ほんの少し紹介しよう。

まず、逃げる虫の代表格ゴキブリ。家屋害虫の代表格でもあるが、世界に4000種もいる仲間のなかには、テントウムシに擬態する“美しい”種もいるそうだ。ゴキブリには、空気の動きをキャッチする尾角(びかく)という器官がある。この尻角と、“皮膚”を通して光を感じる機能をフルに使い、一秒間に体長の34倍の距離を遁走する。どうりで簡単にはつかまらないわけだ。

さまざまなものに擬態して相手をだます虫は、木の枝に化けるナナフシやシャクトリムシ、美しい花に擬態して獲物を捕食するカマキリ、鳥の糞にそっくりなイモムシ、味の悪い種のふりをする蝶など枚挙にいとまがないが、小さなヘビに擬態する大きなイモムシには、その巧みさに驚かされる一方で、〝けなげさ〟にも思わず微笑んでしまう。写真がないのが残念だが、いまやインターネットを駆使すれば、たいていのものは見られる時代。ぜひ、「ヘビに擬態したイモムシ」などのキーワードで検索して、南米にすむスズメガの幼虫が見せるショーをご覧いただきたい。ついでに言えば、本書に登場する昆虫や鳥類、哺乳類や両生類は、ほぼすべてのものについて、実物を写真や動画で見ることができる。索引に原綴を記載したので、英語の通称あるいは学名をキーワードに検索して、本書に登場する個性豊かな面々の姿を実際にご覧いただけたら幸いだ。

また、戦う虫については、沸騰するベンゾキノンを体内で生成して反撃するホソクビゴミムシや、マレーシアに生息する自爆アリ、“火のけだもの”と呼ばれるフランネル・モスの幼虫など、化学的・物理的手段を駆使して反撃する興味深いエピソードが満載だ。

実は、著者は、もともと鳥類学者になりたいと思っていたほどの愛鳥家である。切っても切れない関係にある昆虫と鳥のせめぎあいを語らせるには、まさに第一人者と言えるだろう。牛糞をエサに糞虫をおびきよせるアナホリフクロウの話や、ハチの毒針をよけて捕食するハチクイの話、食い分けや棲み分けを行う工夫などといった鳥に関する数々のとっておき情報も、本書を楽しいものにしている要素である。

(訳者のご同意を得て抜粋掲載しています)
copyright Kyoko Nakazato 2013




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