みすず書房

池内紀『本は友だち』

2015.01.14

「本は友だちである。いつ、どのようなきっかけから友情が結ばれたのか、実をいうと、よく憶えていないのだ。きっかけがあったはずなのに、なぜか思い出せない。気がつくと、かたわらにいた。何かのおりに、また会いたくなる。さりげなく知恵をかしてくれる。別れたあとも楽しくて、なにやら背中をドンと押されたような気がした」
(「あとがき」より)

『本は友だち』は、池内紀さんがここ十年くらいに出会った本たちから、よりすぐりの五十冊あまりを紹介する本です。ラインナップをあげると……。
岡本武司『おれ にんげんたち』、モラエス『モラエスの絵葉書書簡』、メネトラ親方『わが人生の記』、須崎忠助『北海道主要樹木図譜』、芦原修二『川魚図志』、栗本惣吉『御蔵島の社会と民俗』……。多くは、名前を聞いても「誰かな?」と思ってしまう方々。しかし池内さんの紹介を読むと、地味にコツコツ生きた人たちの魅力におおいに惹きつけられる。

たとえば岡本武司。大手新聞社を定年退職後、「好きなこと」のために生きた。それは、ロシア沿海州の猟師デルスー・ウザラーの足跡をたずねる旅に出かけること。そのために退職後はハバロフスクで日本語教師をしながらロシア語を学び、旅にそなえ、実現する。病のため亡くなるまでのわずか二年のあいだに。
「自分の生き方と結びついているからこそ、『好きなこと』が無限に遠くへ人をつれていく。その道には、たえず発見があり、それが小さな里程表になって、自分の人生とかさなってくる。元新聞記者・岡本武司の唯一の著書が、あざやかに見本を示している」(本文より)

この本には、彼をはじめかっこいい大人の見本がおおぜいいる。多くはもうこの世にいないが、本を通して友だちになれる。その意味でもやはり「本は友だち」なのである。

池内紀『本は友だち』(みすず書房)カバー

  • カバー画 池内紀
  • 〔表紙のことば〕
    老いた馬が回想録を書いた。ながらく生きてきたのだもの、いろいろ書くことがある。牧場を跳ねまわっていた子馬のころ。それから長い脚をのばして、さっそうと馬場を駆けていた。走れなくなってからは荷車をひいた。思い出したくないことも少しある。
    回想録の終わりの頁に予告篇をつけた。いずれ天馬になって大空を走ったときの報告。――乞うご期待。
    (池内紀・みすずカレンダー 1999「動物ものがたり」より)[本書巻末所収]