2019.10.10
サートンの家を訪ねて
メイ・サートン『74歳の日記』 幾島幸子訳
C・G・ユング『分析心理学セミナー――1925年、チューリッヒ』 シャムダサーニ/マガイアー編 横山博監訳 大塚紳一郎・河合麻衣子・小林泰斗訳
2019.10.10
ユング自らが生き生きと語るフロイト、赤の書、タイプ論。広大な思想の手引きとなるユング心理学誕生のドキュメンタリ。
巻末の「訳者あとがき」から抜粋して以下に転載いたします。
本書はIntroduction to Jungian Psychology: Notes of the Seminar on Analytical Psychology Given in 1925 を訳出したものです。同書のもととなったのはユングが1925年に開催したセミナーの記録ですが、他のセミナー記録同様、長きにわたってごく限られた人にしか閲覧が許されていませんでした。それが一般に入手可能な形で出版されたのが1989年、『赤の書』の公開を経て新たに編集し直されたものが出版されたのが2012年のことで、本書はこの最新版を底本としました。
はじめて原書を手にしたときの感動は忘れることができません。精神科医になる以前のこと、フロイトとの出会いと決別、アクティヴ・イマジネーションの経験と『赤の書』、タイプ論の起源と発展。いずれも重要なこうした話題をユング自身が生き生きと語っていくその様に、私はすっかり魅了されてしまいました。「……これってひょっとして『ユング自伝』よりも面白いんじゃないか!」。そんな予感に導かれるままに前半部分の訳文を一気に作ってしまったのが、本書の訳出作業のそもそものはじまりでした。
いますべての作業を終えて、この予感は確信に変わりました。これは「ユング心理学」がどのように誕生し、発展していったかをユング本人が語るという、唯一無二のドキュメンタリです。また本書は50歳になる直前、まだ現役の臨床家として日々活動していた時代のユングの肉声を伝えるものでもあります。時に辛辣で、時にユーモラスな、そして何よりも心理療法の実践や同時代の社会政治的状況に対する深い洞察を含んだ彼の言葉は、いまを生きる私たちにとっても切実な内容となっています。ユングから学ぶべきことが、私たちにはまだまだ残されているようです。
ただしもちろん、ここでのユングの語りが100年近い時を経たものであることを忘れるわけにはいきません。1925年当時の、しかもごく近しい人々の集まりだったとは言え、現代の観点から見ればユングや参加者たちの発言の中にはやや危ういもの、場合によっては明らかに問題のあるものも少なからず含まれています。女性や人種、小規模社会(「プリミティヴ」)、そして性的マイノリティ。これらに関連するユングの語りを人権という観点をもとに批判的に乗り越えていくことは、現代を生きる私たちの責任です。それは現代に即した形でユング心理学をもう一度誕生させる、大切な仕事でもあると私は考えています。
copyright©OTSUKA Shinichiro 2019
(筆者の許諾を得て抜粋転載しています)
2019.10.10
メイ・サートン『74歳の日記』 幾島幸子訳
2019.10.10
C・レヴィ=ストロース『人種と歴史/人種と文化』 M・イザール序文 渡辺公三・三保元・福田素子訳