みすず書房

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外山滋比古『第四人称』

隣りの花は赤い。また、芝生は青々としている。他所のものはなんであれ、美しくみえる。

時ならぬ(あるいは、当然の)外山滋比古ブームである。毎月のように新刊が書店の店頭を飾っている。ここに来て、ようやくその真価が認められたようで、まことにめでたい。

しかし、よく見ると、隣りにあるからといって、かくだんに赤く、きれいというわけでもない。うちの花のほうがいいんじゃないか、とも思う。なにしろ、著者による久しぶりの、『古典論』以来の書き下ろしなのである。著者の仕事の本筋をなす、読者論・受け手論の一部にあたる。

このテーマを私的な勉強会で披露してみたが、反応が冷ややかだったという。それは聴いた人たちが先生の著作をよく知っていたからで、つまりは〈第四人称〉の存在ではなかったことである。著者は本を出しても、同僚や知人に一冊も贈呈しない主義だという。それはまず未知の、すなわち〈第四人称〉の人(あなたですよ!)に読んでもらいたいからであるという。

〈第四人称〉とはなにか? 簡単に言ってしまえば、〈アウトサイダー〉、当事者からは離れた第三者のことである。このポジションがいかに創造的・文化的なものであるか? 本書は、このユニークな存在とはたらきを、〈のぞき見〉や〈立ち聞き〉といった卑近な行為をキーワードにして明らかにした論考=エッセイである。

みすずの赤い、うつくしい花をとっくりご覧ください。




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