みすず書房

メツル/カークランド編『不健康は悪なのか』

健康をモラル化する世界 細澤仁・大塚紳一郎・増尾徳行・宮畑麻衣訳

2015.04.10

あなたは「健康」という言葉をどういう意味で使っているだろうか?

だれかに「タバコは健康に悪いよ」と言うとき。あるいは、だれかに「太っていると健康に悪いよ」と言うとき。
私たちはだれかにそう言うたびに、「健康」の対極にある喫煙者や肥満者が「悪いことをしている」という価値観をはっきりと表明しているのではないだろうか?

今日、このような日常会話に現われる価値観が、国家、そして世界レベルで新しい「道徳」になっていることを指摘するのが本書だ。
正しい食事、正しい身体のサイズ、正しい育児、正しい遺伝子……。私たちは肉体的にも精神的にも、そして性的にも遺伝子的にも、「健康であること」が求められる。道徳に従えば、それがあたりまえのことなのだ。

では、いま「健康」の名のもとに行われていることは、本当にすべて私たちを「健康」へと導くためだけなのだろうか?
もしもだれかが金儲けのために私たちを「健康」へと導くとしたら? もしもだれかが「異常」を定義し排除するために、私たちを均質な「健康」へと導くとしたら? そして、もしもだれかが私たちを統治するために「健康」へと導くのだとしたら?

本書はけっして個別の医療行為や健康促進を批判するものではない。
世の中にはトレイから溢れんばかりのフライドポテトや、食後にくゆらせる紫煙が唯一のストレス解消という人もいるだろう。本書はそんな私たち一人一人に固有の「健康」が奪われつつある現状に警鐘を鳴らしているのである。

本書を読み終えたあと――さて、あなたは「健康」という言葉をどういう意味で使うだろうか?