みすず書房

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外山滋比古『忘却の力』

創造の再発見

どんな本でもそうであるが、タイトルを決める時はいつも困惑する。連載や書き下ろしで、もうタイトルが決まっていればまことに楽で、助かるのだが。今度の本も、著者の外山先生と、どうしましょうか? とアアでもないコウでもないと何回も相談したものである。雑誌「みすず」に連載された時の通しのタイトルは「木石片々録」であるが、これはちょっとつかえない。すこし前に『老人力』というユニークな本が出て、ずいぶん売れたようである。これにあやかって『忘却力』にしましょうか? と提案したところ、先生、首をひねって、あまり感心しない様子である。たしかに「……力(りょく)」というタイトルがさいきんやたらと目につく。しかし、売れないと困るので、ねばった。ベストではありませんが、ともかく、間に「の」を入れるということでナントカなりませんか。しょうがないねェ……

「近代社会は知識信仰が根強い。知識は広ければ広いほどよく、多ければ多いほどよいときめてかかっている。コンピューターにかなわないことも気にしない。学校教育も要するに知識の蓄積である。記憶が大切だから、忘れていないか、ときどきテストでチェックするから、忘れるのはよくないという誤解が確立する。もちろん、選択的忘却が人間にのみできることだとは考えない」(「過ぎたるは……」)

「なんでも知っているバカがいる」(内田百閒)。この本のテーマは簡単で、こうした知的メタボリックにならないための常備薬である。知的肥満をおさえ、頭のはたらきをよくする50のヒントが並んでいる。コンピューターが活躍するようになって、もう人はなんでも知っている必要はなくなった。現代人はここから出発するしかない。知的な満腹を脱して、腹八分の状態を維持しなければならない。つまり、現代人にとって忘却とは排泄作用、頭のなかの必要なものを残して、ゴミのような知識を捨てることである。無駄な知識がつまっていないか、さあ、自分の頭のなかを整理してみよう。




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