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『スターリンのジェノサイド』
ノーマン・M・ネイマーク 根岸隆夫訳
旧ソヴィエト連邦には、11の時間帯があった。気の遠くなるような、広大な領土だ。
スターリンは「国の内外を問わず」、膨大な数の諸民族を「敵性民族」と名づけて、酷寒地など、不毛な土地へ強制移住させた。多くの場合、待っていたのは餓死・病死だった。ポーランド人、ドイツ人がその犠牲になったことは、よく知られている。しかし、日本からは遠い場所の話に聞こえる。
ところが、当時、ソ連の極東地域に住んでいた全朝鮮人が、「日本のスパイ」として強制移住させられた、という事実を知ると、ことは一挙に身近にならないだろうか。
いくつかの資料や書物によると、この時期、合計13民族、200万人を超える人びとが、ソ連領内の遠隔地へ移住させられたが、その先頭を切ったのが、じつは朝鮮人だった。1937年の極秘の政府決定によって、朝鮮人は敵対協力(の可能性)の罪を着せられ、東部国境地域からカザフスタン、ウズベキスタンへ追放された。
これが先例となって、1941年にはフィン人、ドイツ人が続き、さらにカルムイク人、カラチャイ人、チェチェン人、イングーシ人、バルカン人、クリミア・タタール人と続く。
日本は1930年代、積極的に大陸侵略をおこない、31年には柳条湖事件、続いて満州国樹立、37年には盧溝橋と、日本と中国は戦争状態だった。スターリンにとって、そんな日本が脅威でなかったはずはない。この状況下で、朝鮮人は問答無用で追放されたのだった。
強制移住とその結果としての大量死は、スターリンの断行した「ジェノサイド」の一つだった、とこの本の著者は主張する。しかし同時に、複数の「ジェノサイド」の一つでしかなかったとすれば、全体で犠牲者が数百万人ともそれ以上ともいわれる、「ジェノサイド」の全容は、途方もない規模だ。なぜ、こんなことが起こったのだろうか。そして、これは「過去のこと」だろうか。
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