
2022.09.01
ロングセラーを中心に
2021年4月1日
2021年3月、みすず書房は創業75年を迎えました。
ロングセラーを中心に
敗戦からまもない1945年12月、「新しい出版社をやろう」と設立発起人となった山崎六郎(1889年生)・清水丈男(1902年生)・小尾俊人(1922年生)の三名は、1946年3月、焼け野原の日本橋の一角に事務所を設け社名を「美篶(みすず)書房」とし、若い小尾を中心に「まず紙、印刷と製本の設備、それからお金、そして企画」、と動き出した。みすず書房の歴史はそこから始まる。
それから数えて2021年で75年。1946年7月刊行の第一作、片山敏彦『詩心の風光』に始まり、これまで世におくった本の点数は、今年2021年2月には5000点を超えた。
総点数5000点余のうち、現在在庫のある本は約1700点。一年に数冊程度のものから『夜と霧』のように毎月1000冊以上動いているものまで、在庫といっても広い幅はあるが、75年間に刊行した本の三分の一以上が、いまも元気に読者の手許にわたっている。
出版した本がいかに読者に受け入れられ、長年にわたって読みつづけられるかどうかは、企画の質や作り手の工夫だけでなく、刊行当初の時代状況や書評のタイミングなどさまざまな偶然に左右される。期待作が惨敗したかと思うとその逆もあり、普遍的な質においては似たような本であっても、一方はロングセラーとなり、一方は在庫を抱えて倉庫に眠る場合もある。本の運命は誰にもわからない。それでも、知恵と工夫を積み重ねてきた結果、みすず書房は75年にわたり出版事業を継続でき、多くのロングセラーも生み出すことができた。このような現在を迎えることができるのも、読者の皆様はじめ多くの方々のご支援とご協力があってのことであるのは言うまでもない。
以下、ロングセラーを中心に、みすず書房の本の75年にわたる歴史を、5年を単位に、そのつどの特徴を記しながら簡単に振り返ってみたい。ここでロングセラーとは、初版以来ずっと読まれつづけているものだけでなく、一時は品切になっても、復活をくり返している本も含む。
2021年3月
株式会社 みすず書房
代表取締役 守田省吾
創業の年1946年は7月刊の片山敏彦『詩心の風光』に始まり5点を刊行、以後1947年(11点)、48・49年(各18点)、50年(27点)と徐々に刊行点数も増えていくが、その多くは、単行本だけでなく1950年代半ばまでみすず書房の初期を支え象徴していた『ロマン・ロラン全集』の刊行であった。『ロマン・ロラン全集』でも大きな役割を果たした片山敏彦は、その後ツヴァイク『人類の星の時間』はじめ多くの著訳書をみすず書房から刊行、アーレント、カール・シュミットなどの訳者でもある大久保和郎ともども、いまもその名を残している。1948年5月刊行の大塚久雄『宗教改革と近代社会』は版や改訂を重ねながら2000年近くまでのロングセラーとなった。
1947年1月 『ロマン・ロラン全集 28 獅子座の流星群』(第1次・全53巻、1947-54)。同全集をもとに『ロマン・ロラン文庫』(全32巻、1952-55)『ロマン・ロラン作品集』(全10巻、1953-54)のほか『ジャン・クリストフ』『魅せられたる魂』の普及版・上製版・学生版なども刊行された。その後『ロマン・ロラン全集』は第2次・全35巻(1958-66)、さらに第3次・全43巻(1979-85)と続いた/11月 『吉満義彦著作集 1 文化と宗教の理念』
1948年5月 大塚久雄『宗教改革と近代社会』(1996年の重版を最後に、計28刷)/5月 中村元『東洋人の思惟方法 1』
1949年10月 大塚久雄他『社会科学入門』
1950年1月 『ドイツ小説集』片山敏彦・大久保和郎訳/4月 「みすず新書」(全7巻)大塚久雄『宗教改革と近代社会 増訂』(みすず新書 1)/4月 村上仁『芸術と狂気』(みすず新書 3)/11月 アレクサンダー『理性なき現代』/12月 ハロルド・ラスキ『現代革命の考察 上下』
刊行点数は1951年からの5年間で33点、46点、64点、71点、58点となり、安定しはじめる。多少の増減はあっても、以後現在にいたるまで年間点数はおおむね変わっていない。ただ、1960年代半ばまでの特徴は、全集・シリーズがその多くを占めている点だ。
大学生の教科書として読み継がれている朝永振一郎編『物理学読本』と『量子力学 I』の旧版が1952年の春に続けて刊行された(『量子力学 II』は1953年12月刊)。1953年には北川敏男編『サイバネティックス』を皮切りにシリーズ「現代科学叢書」(全49冊、1953-58)を開始、このシリーズからハイゼンベルク『自然科学的世界像』、クレッチマー『ヒステリーの心理』、ウィーナー『人間機械論』(旧版)、セシュエー『分裂病の少女の手記』などが生まれた。1954年刊のリード編/片山敏彦訳『クレエ』は当時では珍しい原色(カラー)の絵を使用、翌1955年には『原色版美術ライブラリー』(全34巻)の刊行が始まり、多くの読者に迎えられ、出版社として徐々にではあるが安定してきた。この頃、小島信夫『アメリカン・スクール』、庄野潤三『プールサイド小景』、島尾敏雄『帰巣者の憂鬱』などをつづけて刊行するが、大手を中心とした文芸出版社との関係もあり、この分野の本は以後はほぼ刊行を控えることになる。
1951年6月 ラティモア『アメリカの審判』/7月 ツヴァイク『運命の賭』大久保和郎訳
1952年2月 アルベレース『二十世紀の知的冒険 上下』大久保和郎訳/4月 朝永振一郎編『物理学読本』(69年5月・第2版)/5月 朝永振一郎『量子力学 I』(物理学大系 基礎物理篇、69年12月・第2版)/10月 フルニエ『グラン・モーヌ』長谷川四郎訳(2005年、大人の本棚)
1953年5月 「現代科学叢書」刊行開始(全49巻、1953-58)/7月 ウェーバー『世界宗教の経済倫理 2』/9月 ハイゼンベルク『自然科学的世界像』/9月 アイヒバウム『天才』/10月 ウェーバー『経済史 1』(原典復刻叢書 1 全7巻、1953-55)/12月 朝永振一郎『量子力学 II』(物理学大系 基礎物理篇、97年3月・第2版)/12月 クレッチマー『ヒステリーの心理』
1954年1月 ウィーナー『人間機械論』(79年10月・第2版)/4月・5月 ボルン『現代物理学 上下』/5月 ベルタランフィ『生命』(74年6月・第2版)/6月 『異常心理学講座』第1次・全8巻刊行開始(1954-56)。その後『異常心理学講座』第2次・全10巻(1965-73)、第3次・全10巻(1987- 完結せず)/9月 小島信夫『アメリカン・スクール』/11月 ミンコフスキー『精神分裂病』/12月 ラッセル『西洋哲学史 上』(55年5月・中、56年1月・下、61年2月・合本)
1955年2月 小島信夫『アメリカン・スクール』普及版/2月 庄野潤三『プールサイド小景』/3月 島尾敏雄『帰巣者の憂鬱』/3月 リースマン『孤独なる群衆』(旧版)佐々木・鈴木・谷田部訳(1964年に加藤秀俊による改訳・改版)/3月 『原色版美術ライブラリー』全34巻刊行開始(1955-58)第1回配本『ボナール』片山敏彦解説(7月 『ピカソ』岡本太郎解説、10月 『ピカソ 人間喜劇』瀧口修造解説。後に『原色版美術ライブラリー(東洋編)』(全15巻、1957-59)/9月 クレッチマー『医学的心理学 1』(12月・2)/10月 バナール『歴史における科学 1』(全4巻、11月・2と3、56年1月・4)/11月 セシュエー『分裂病の少女の手記』(現代科学叢書 23、71年3月・改訂版)
1956年8月、フランクル/霜山徳爾訳『夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録』が刊行された。奥付の刊行日には「8月15日」とある。自然科学・精神医学のシリーズ「現代科学叢書」の続編でそれ以外の分野も加えた「現代科学叢書A」というシリーズを1955年から刊行していたが、『夜と霧』もそのシリーズの一冊であった。翌1957年には、同じ著訳者による『死と愛』も刊行。神谷美恵子との仕事もこの頃に始まり、1958年には神谷美恵子訳でジルボーグ『医学的心理学史』が刊行された。1959年からは並製新書版の「みすず・ぶっくす」全50巻が始まる。ここからはネルー『父が子に語る世界歴史』(全6巻)やピアジェ『知能の心理学』、スノー『二つの文化と科学革命』などが誕生した。『ペイネ 愛の本』の原型となるシリーズが刊行されたのもこの年である。
1956年7月 ボーム『量子論 1』(11月・2、58年9月・3、64年5月・合本)/8月 フランクル『夜と霧』(現代科学叢書 A4、その後『夜と霧』は1961年に『フランクル著作集』の第1巻に収録され、1984年に新装版として単行本となり、現在にいたる)/9月 スノー『アジアの戦争』(「現代史大系」全13巻刊行開始)/11月 バナール『歴史における科学』合本/12月 ウィーナー『サイバネティックスはいかにして生まれたか』
1957年2月 フランクル『死と愛』(1961年に『フランクル著作集』第2巻として収録、1985年に新装版となり、2019年、改版新版となって現在にいたる)/3月 アレグロ『死海の書』(「人間と文明の発見シリーズ」全15巻刊行開始)/4月 ソーヤー『数学へのプレリュード』/6月 ボス『性的倒錯』/6月 ピカート『ゆるぎなき結婚』/6月 ペヴスナー『モダン・デザインの展開』/7月 ティンベルヘン『動物のことば』/7月 ヒンチン『数論の三つの真珠』/11月 みすず書房編集部編『二十世紀のプロフィール MISUZU CALENDER 1958』/11月 ノイマン『量子力学の数学的基礎』/12月 ロビンソン『資本蓄積論』/12月 ゴールドシュタイン『生体の機能』
1958年1月 リード『芸術の意味』(A5判上製版、その後「みすず・ぶっくす」に入り、同じB6判の上製で現在にいたる)/2月 フィッシャー『ベートーヴェンのピアノソナタ』(佐野利勝・木村敏訳)/2月 バロック『アドルフ・ヒトラー 1』(1960年4月・2)/5月 パロ『聖書の考古学』/6月 ケナン『ソヴェト革命とアメリカ 1』(「現代史双書」全9巻刊行開始)/6月 ジルボーグ『医学的心理学史』神谷美恵子訳/10月 セント=ジェルジ『生体とエネルギー』/11月 矢内原伊作編『ジャコメッティ』(現在にいたるものの最初のかたち)/12月 ケストナー『わたしが子どもだったころ』
1959年1月 ボルケナウ『封建的世界像から近代的世界像へ 1』(12月・2、65年9月・合本)/1月 ピカート『人間とその顔』/2月 「みすず・ぶっくす」刊行開始(全50巻、1959-63)長谷川四郎『随筆 丹下左膳』/3月 『バートランド・ラッセル著作集』全14巻・別巻1 刊行開始(1959-60)/3月 林語堂『則天武后』小沼丹訳/3月 ハイゼンベルク『現代物理学の思想』(みすず・ぶっくす)/4月 『北一輝著作集 1』(全3巻、1959-72)/4月 リース『フルトヴェングラー』(みすず・ぶっくす、その後改版をくり返して現在にいたる)/6月 メラー『相対性理論』/6月 ネルー『父が子に語る世界歴史 1』(みすず・ぶっくす、その後改版をくり返して現在にいたる)/9月 『エロシェンコ全集 1』/9月 ドレ『ジイドの青春 1』/11月 アダマール『発明の心理』(みすず・ぶっくす、1989年に改題新版『数学における発明の心理』)/11月 ボス『心身医学入門』(みすず・ぶっくす)/12月 「現代美術」全25巻刊行開始(1959-64)第1回『クレー』片山敏彦解説
1960年1月 ノイマン『大衆国家と独裁』/2月 ピアジェ『知能の心理学』(みすず・ぶっくす、その後改版をくり返して現在にいたる)/2月 ビンスワンガー『夢と実存』(みすず・ぶっくす)/7月 ペイネ『〈ふたり〉のポケット・ブック』(10月・『〈ふたり〉のウィークエンド』、61年3月・『〈ふたり〉のベッドサイド・ブック』、61年5月・『〈ふたり〉のおくりもの』。当初はA5判で刊行されたが1965年6-7月に新書判の普及版にし、その後合本で『ペイネ 愛の本』になり現在にいたる)/7月 ヒルベルト/コーン=フォッセン『直観幾何学 1』(1961年1月・2、66年8月・合本)/8月 スノー『二つの文化と科学革命』(みすず・ぶっくす、その後増補改訂や改版をくり返して現在にいたる)/9月 ビンスワンガー『精神分裂病 1』(61年5月・2)/9月 『イーデン回顧録 1』(全4巻、1960-64)/11月 マイネッケ『近代史における国家理性の理念』/11月 ダート『ミッシング・リンクの謎』/12月 『ドゴール大戦回顧録 1』(全6巻、1960-66)
1961年3月には『夜と霧』『死と愛』をはじめとする『フランクル著作集』(全7巻)が、4月には『ツヴァイク全集』(第1次・全19巻)の刊行が始まり、その第1回として第8巻『人類の星の時間』が世におくられた。翌1962年8月には、みすず書房のひとつのシンボルでもある『現代史資料』(全45巻・別巻)の第1巻『ゾルゲ事件 1』が刊行される。1963年には同時代の出来事を主なテーマとする「みすず叢書」がスタート、ジャーナリストの必読書となった小和田次郎『デスク日記』(1965)が読まれた。同じ1963年11月には、『ファン・ゴッホ書簡全集』(全3巻)も刊行される。B5判・総2154頁で原色のスケッチを挿入した豪華限定版で、当時の価格で2万3000 円であった。『ファン・ゴッホ書簡全集』はその後B5判・全6巻の普及版、菊判・全6巻の新装版と引き継がれ、現在はオランダ語の決定版にもとづく抄訳『ファン・ゴッホの手紙』となって読まれている。1965年12月にはシリーズ「現代史戦後篇」がスタート、個人著作集などを除けば、創業以来数々つくり上げてきた大きいシリーズはほぼこれで最後になり、以後のみすず書房は文字通りの単行本中心になる。
この時期の単行本で特筆すべきなのは、1964年2月に、ピカート『沈黙の世界』、テイヤール・ド・シャルダン『現象としての人間』、リースマン『孤独な群衆』の3点がほぼ同時に刊行されたことだろう。『孤独な群衆』は1955年に刊行された『孤独なる群衆』の加藤秀俊による改訳・改版であった。また11月にはメルロ=ポンティ『行動の構造』が、その後長年にわたる装丁の基調となる白いジャケットで登場する。それまで「学術書」と呼ばれるものの多くは段ボール箱入りだったが、読者に少しでも親しみやすくするため箱から出し、白いカバー装にし、カバー裏には著者写真と説明を入れるスタイルが生まれたのは、この頃である。みすず書房の本の統一性も生まれ、白い装丁はみすず書房の代名詞にもなった。そういう意味では、ほぼすべての本がシリーズになったのだとも言えるだろう。
1961年2月 ラッセル『西洋哲学史』合本/3月 『フランクル著作集1 夜と霧』(全7巻、1961-62)/3月 ミルズ『キューバの声』鶴見俊輔訳/4月 『ツヴァイク全集8 人類の星の時間』(第1次・全19巻、1961-65、第2次・全21巻、1972-76)/4月 『フランクル著作集2 死と愛』/4月 ウィーラー=ベネット『国防軍とヒトラー 1』(12月・2)/6月 『ツヴァイク全集17 昨日の世界 1』(8月・2)/9月 マートン『社会理論と社会構造』
1962年1月 チャドウィック『線文字Bの解読』/2月 ウェーバー『古代ユダヤ教 1』(64年11月・2)/4月 ゼーリッヒ『犯罪学』/5月 フェリックス・クレー『パウル・クレー』/8月 ボス『精神分析と現存在分析論』/8月 マンハイム『変革期における人間と社会』/8月 『現代史資料 1 ゾルゲ事件 1』(『現代史資料』全45巻・別巻、1962-80、『続・現代史資料』全12巻、1982-96)/10月 『サン=テグジュペリ著作集』刊行開始(第1次・全6巻・別巻、1962-63、後に『サン=テグジュペリ著作集』全11巻・別巻、1983-90)/12月 トマス『スペイン市民戦争 1』(1963年6月・2、1988年に合本)
1963年1月 クリヴィツキー『スターリン時代』(87年3月・第2版)/1月 瀧口修造『点』/6月 ノースロップ『ふしぎな数学』/7月 ドイッチャー『スターリン 1』(64年8月・2、1984年7月・合本)/7月 ディラック『量子力学(リプリント)』/9月 マリアンネ・ウェーバー『マックス・ウェーバー 1』(1965年5月・2、1987年・合本)/10月 ノイマン『ビヒモス』/11月 『ファン・ゴッホ書簡全集』限定版(全3巻、普及版全6巻、1969-70、新装版全6巻、1984)/12月 ペリュショ『セザンヌ』/12月 「みすず叢書」刊行開始 第1回 ニーベル/ベイリー『五月の七日間』
1964年2月 ピカート『沈黙の世界』/2月 テイヤール・ド・シャルダン『現象としての人間』/2月 リースマン『孤独な群衆』加藤秀俊訳(改訳・改版、1965年に並製普及版)/5月 ボルン『現代物理学』合本/5月 ボーム『量子論』合本/10月 ポリア『数学の問題の発見的解き方 1』(1967年1月・2)/11月 メルロ=ポンティ『行動の構造』
1965年2月 小和田次郎『デスク日記 1』(全5巻、1965-69、みすず叢書)/5月 ギリスピー『科学思想の歴史』(2011年4月・改題新版『客観性の刃』)/6月 ヒューズ『意識と社会』/9月 ピカート『われわれ自身のなかのヒトラー』/9月 ボルケナウ『封建的世界像から市民的世界像へ』(1959年刊の2巻本を改題・合本)/10月 フッサール『現象学の理念』/12月 朝永振一郎『鏡のなかの世界』/12月 シリーズ「現代史戦後篇」刊行開始
1966年4月に病者のそばにいることの大切さを静かに描いたシュヴィング『精神病者の魂への道』、そして5月には神谷美恵子『生きがいについて』を刊行、「生きがい」ブームともども、ベストセラーになった。この時期は世界的にいわゆる激動の時代であった。それに対応して、1966年にはキング『黒人はなぜ待てないか』(「みすず叢書」)が、1968年には『ゲバラ日記』とハルバスタム『ベトナム戦争』(「現代史戦後篇」、後に『ベトナムの泥沼から』に改題)が、また8月のチェコ事件、プラハの春の全貌を伝える、みすず書房編集部編『戦車と自由――チェコスロバキア事件資料集 1・2』(「みすず叢書」)が11月・12月に緊急出版された。「現代史戦後篇」の一冊として『フランツ・ファノン集 黒い皮膚・白い仮面/地に呪われたる者』も刊行される。1969年には大学生を中心にメルロ=ポンティやフッサールの難解な本が読まれるブームが起こり始め、フランスに発した構造主義が日本にも輸入される。レヴィ=ストロースやフーコーの本の刊行も始まった。1969年にはアーレント『イェルサレムのアイヒマン』を刊行するが、後の『全体主義の起原』ともども読者に恵まれず、いずれも初版のまま品切れとなった。同様に1970年刊のミラン・クンデラの小説『冗談』も当時はまったく動かなかった。
1966年2月 バーリン『歴史の必然性』/3月 キング『黒人はなぜ待てないか』/4月 シュヴィング『精神病者の魂への道』/5月 神谷美恵子『生きがいについて』/6月 プリゴジーヌ/デフェイ『化学熱力学 1』(10月・2)/6月 瀧口修造『余白に書く』限定版/12月 メルロ=ポンティ『眼と精神』
1967年4月 藤田省三『維新の精神』(74年4月・第2版、75年12月・第3版)/4月 フッサール『内的時間意識の現象学』/6月 ハマーショルド『道しるべ』/7月 ホーフスタッター『アメリカ現代史』(88年8月・改題新装『改革の時代』)/9月 ヴィーゼル『夜』/10月 カー『ボリシェヴィキ革命 1』(全3巻、1967-71)/10月 ビンスワンガー『現象学的人間学』/11月 『ブーバー著作集 1 対話的原理 1』(その後改版して1978年に『我と汝・対話』として刊行)/11月 メルロ=ポンティ『知覚の現象学 1』(74年11月・2)/11月 中村禎里『ルィセンコ論争』(97年3月・改題『日本のルィセンコ論争』)
1968年3月 「みすず科学ライブラリー」刊行開始(全53巻、1968-78)/3月 プイヨン編『構造主義とは何か』/6月 アルク誌編『レヴィ=ストロースの世界』/7月 フッサール『論理学研究 1』(全4巻、1968-77)/7月 矢内原忠雄『土曜学校講義』刊行開始(全10巻、1968-72)/8月 『ゲバラ日記』/8月 ハルバスタム『ベトナム戦争』(現代史戦後篇、後に1987年『ベトナムの泥沼から』に改題)/9月 キング『良心のトランペット』(みすず叢書)/9月 レッシング『DNA』(みすず科学ライブラリー)/10月 外山滋比古『修辞的残像』/11月 『陸羯南全集 1』(全10巻・刊行開始、1968-85)/11月 ブラッサイ『語るピカソ』/11月 みすず書房編集部編『戦車と自由 1』(みすず叢書、12月・2)/12月 ピアジェ『思考の心理学』/12月 『フランツ・ファノン集 黒い皮膚・白い仮面/地に呪われたる者』(現代史戦後篇)
1969年5月 朝永振一郎『物理学読本』第2版/8月 『フランツ・ファノン著作集』全4巻刊行開始/9月 アーレント『イェルサレムのアイヒマン』(その後新装版、2017年に『エルサレムのアイヒマン』として改題・新版)/9月 ギュスドルフ『言葉』/9月 リースマン『日本日記』『現代文明論』/9月 カー『ロシア革命の考察』/11月 『フランツ・ファノン著作集3 地に呪われたる者』/12月 朝永振一郎『量子力学 I』第2版/12月 テイラー『人間に未来はあるか』(みすず科学ライブラリー、71年2月・続)/12月 フーコー『臨床医学の誕生』神谷美恵子訳
1970年2月 ゲイ『ワイマール文化』(旧版)/2月 シャルボニエ『レヴィ=ストロースとの対話』/2月 ローレンツ『攻撃 1』(みすず科学ライブラリー、5月・2、85年に合本)/2月 フーコー『精神疾患と心理学』神谷美恵子訳/2月 レヴィ=ストロース『人種と歴史』(2019年に新訳新版)/3月 『フランツ・ファノン著作集 1 黒い皮膚・白い仮面』/3月 ガンディー『わたしの非暴力 1』(みすず叢書、71年12月・2)/3月 ラッセル『西洋哲学史 1』新版(全3巻、2021年に合本)/3月 ヒューズ『意識と社会』改訂版/6月 みすず書房編集部編『逆説としての現代』/7月 ヒューズ『ふさがれた道』/7月 レヴィ=ストロース『今日のトーテミスム』/8月 シュミット『政治的ロマン主義』/9月 クンデラ『冗談』/10月 ホール『かくれた次元』/11月 クラカウアー『カリガリからヒトラーへ』
政治であれ学問・知識であれ、既成の体制への異議申し立てのうねりや地殻変動は、みすず書房の本にもあらわれていた。歴史的発展史観を批判したフランスの構造主義の本、レヴィ=ストロース『構造人類学』(1972)、バルト『零度のエクリチュール』(1971)『モードの体系』(1972)『S / Z』(1973)、スタロバンスキー『透明と障害』(1973)、さらに構造主義の祖と言われていたヤーコブソン『一般言語学』(1973)などが次々に刊行され、当時の読者の多くも「構造主義の本」としてとらえていた。精神医学の分野でも、反精神医学を標榜するR・D・レインというスターが登場し、『ひき裂かれた自己』(1971)『結ぼれ』(1973)『経験の政治学』(1973)『自己と他者』(1975)と、専門を超えて日本の読者の心を揺るがしていた。このような学問の地殻変動を象徴し衝撃を与えたのが、1971年刊のクーン『科学革命の構造』および1972年刊のモノー『偶然と必然』である。
一方、世界的な動きとは別に、他社ともども、アーレントとカール・シュミットの翻訳書がこの時期に続々出版されたのは、この国の特異な現象であった。一部の少数読者に熱狂的に受け入れられたクルツィウスの大著『ヨーロッパ文学とラテン中世』が刊行されたのが1971年12月、かつて1955年に「現代科学叢書」の一冊として刊行されたセシュエー『分裂病の少女の手記』が白い装丁で生まれ変わったのも、同じ1971年の7月であった。
1971年2月 ピアジェ『哲学の知恵と幻想』/2月 ミルズ『権力・政治・民衆』/3月 クーン『科学革命の構造』/4月 ホッファー『波止場日記』(みすず叢書、その後新装版などをくり返し、現在にいたる)/4月 クラーゲス『リズムの本質』/6月 アラン『デカルト』/6月 トレヴェリアン『イギリス社会史 1』(83年11月・2)/6月 ヤスパース『精神病理学原論』/7月 バルト『零度のエクリチュール』(2008年に改訳、新版)/7月 セシュエー『分裂病の少女の手記』改訂・改装/10月 レイン『ひき裂かれた自己』/10月 グリーン『分裂病の少女 デボラの世界』/12月 バーリン『自由論 1』(12月・2、79年に合本)/12月 クルツィウス『ヨーロッパ文学とラテン中世』
1972年1月 バルト『モードの体系』/2月 ステント『進歩の終焉』(みすず科学ライブラリー、その後2011年「始まりの本」)/2月 シュミット『現代議会主義の精神史的地位』/2月 コイレ『プラトン』/3月 ミンコフスキー『生きられる時間 1』(73年12月・2)/5月「グループの社会史」4冊同時刊行 ヒングリー『ニヒリスト』、ベル『ブルームズベリー・グループ』、ホブズボーム『匪賊の社会史』、フレンチ『映画のタイクーン』/5月 メルロ=ポンティ『弁証法の冒険』/5月 レヴィ=ストロース『構造人類学』/6月 ヤッフェ編『ユング自伝 1』(73年5月・2)/7月 アーレント『全体主義の起原 1』(12月・2、74年12月・3、1981年に新装版、2017年に新版)/9月 シリーズ「亡命の現代史」全6巻刊行開始/10月 ヴェーバー『宗教社会学論選』/10月 モノー『偶然と必然』/12月 ホワイト『機械と神』(みすず科学ライブラリー、90年10月・新装)/12月 ドッズ『ギリシァ人と非理性』
1973年1月 内村・吉益監修『日本の精神鑑定』(2018年に増補新版)/1月 スタイナー『青髭の城にて』/3月 ヤーコブソン『一般言語学』/3月 アーレント『暴力について』(その後改訳・改版)/5月 ファセット『バルトーク晩年の悲劇』(亡命の現代史 6、その後単行本化)/8月 ベルタランフィ『一般システム理論』/9月 バルト『S / Z』/9月 ブロック『封建社会 1』(77年1月・2)/10月 コイレ『閉じた世界から無限宇宙へ』/11月 レイン『結ぼれ』/12月 レイン『経験の政治学』/12月 スタロバンスキー『透明と障害』(93年に改題・改装『ルソー 透明と障害』)/12月 広重徹訳・解説『カルノー・熱機関の研究』
1974年1月 柴谷篤弘『反科学論』/3月 テイヤール・ド・シャルダン『愛について』/5月 コリングウッド『自然の観念』/6月 カー『一国社会主義 1』(77年10月・2)/6月 シュミット『憲法論』/6月 『ペイネ 愛の本』/7月 ハイゼンベルク『部分と全体』/9月 デュルケム『社会学講義』/9月 ギート『工科系のための熱物理学 1』(75年2月・2)/9月 『エロシェンコ作品集』(全2巻)/10月 カボー『シモーヌ・ヴェーユ伝』/11月 カッシーラー『ジャン=ジャック・ルソー問題』
1975年2月 外山滋比古『エディターシップ』/3月 ヴァイツゼッカー『ゲシュタルトクライス』/4月 チュルン『ジャスミンおとこ』/7月 カチャルスキー/カラン『生物物理学における非平衡の熱力学』/7月 ジェイ『弁証法的想像力』/9月 朝永振一郎『庭にくる鳥』/9月 レイン『自己と他者』
数あるレヴィ=ストロースの本の中で最も版を重ねている『野生の思考』が刊行されたのは1976年3月である。同じ月には、現在新たに読者を広げているヴァージニア・ウルフの著作集・全8巻がスタートし、この年には『燈台へ』『ダロウェイ夫人』『波』、それと神谷美恵子訳『ある作家の日記』など5点を刊行、翌年には完結する。1976年11月、編集に長年を要した丸山真男『戦中と戦後の間』を刊行、その後大佛次郎賞も受賞した。この時期、国際共同出版に関わり、1977年にはブラッサイの写真集『未知のパリ、深夜のパリ』を、1980年には『ライフ写真集』を刊行、自社の企画だけではむつかしいものも出版できるようになる。1976年にはサリヴァン『現代精神医学の概念』、訳者の中井久夫はその後次々とみすず書房から著訳書を出版することになる。同様に、1979年2月刊のカッシーラー『実体概念と関数概念』は、訳者である山本義隆との最初の仕事であった。1980年6月、全15冊セット・限定1500部・4万8000円の『辻まこと全画集』を刊行、すぐに売り切れとなる。1962年に『ゾルゲ事件 1』からスタートした『現代史資料』全45巻・別巻が完結したのも、1980年のことであった。神谷美恵子が1979年10月に亡くなり、1980年6月から『生きがいについて』を第1回配本に『神谷美恵子著作集』の刊行が始まる。この頃から、学生の活字離れをはじめ、1950年代後半以後活況を呈していた出版界、とくに人文系出版社に翳りがみえるようになる。みすず書房も同じであった。
1976年2月 ハート『法の概念』/3月 『ヴァージニア・ウルフ著作集』刊行開始(全8巻、1976-77)/3月 レヴィ=ストロース『野生の思考』/5月 サリヴァン『現代精神医学の概念』中井久夫ほか訳/10月 チョムスキー『デカルト派言語学』/10月 笠原嘉『精神科医のノート』/11月 矢内原・宇佐見編訳『ジャコメッティ 私の現実』/11月 丸山真男『戦中と戦後の間』
1977年4月 バルト『テクストの快楽』(2017年、改訳・改題し『テクストの楽しみ』として刊行)/5月 ラプランシュ/ポンタリス『精神分析用語辞典』/5月 エリクソン『幼児期と社会 1』(80年4月・2)/8月 グランスドルフ/プリゴジン『構造・安定性・ゆらぎ』/10月 ヤーコブソン『音と意味についての六章』/12月 ブラッサイ『未知のパリ、深夜のパリ』/12月 矢内原伊作編『辻まことの世界』(78年7月・続)
1978年3月 レイン『好き?好き?大好き?』/3月 ジャンケレヴィッチ『死』/4月 玉野井芳郎『エコノミーとエコロジー』/4月 大塚久雄『生活の貧しさと心の貧しさ』/5月 「アート・イン・コンテクスト」刊行開始(全8巻、1978-81)/7月 テレンバッハ『メランコリー』木村敏訳(85年12月・新版)/7月 ブランケンブルク『自明性の喪失』木村敏ほか訳/11月 ブーバー『我と汝・対話』/11月 ヒューズ『大変貌』/12月 『フランス革命の省察 エドマンド・バーク著作集 3』(89年6月に新装単行本化)/12月 『マティス 画家のノート』
1979年2月 カッシーラー『実体概念と関数概念』山本義隆訳/3月 ラッセル『人生についての断章』/3月 『彼自身によるロラン・バルト』(2018年、改訳・改題し『ロラン・バルトによるロラン・バルト』として刊行)/4月 出版太郎『朱筆』(1990年・II)/7月 バーリン『自由論』(合本)/9月 ウィルソン『死海写本』/10月 ウィーナー『人間機械論』改訳・第2版/10月 リーバー『ガロアと群論』/11月 バルト『物語の構造分析』/12月 フッサール『イデーン I-1』(全5冊、1979-2010)
1980年6月 『辻まこと全画集』/6月 『神谷美恵子著作集 1 生きがいについて』(全10巻・別巻1・補巻2、1980-86)/9月 バルト『恋愛のディスクール・断章』/12月 アリエス『〈子供〉の誕生』/12月 『神谷美恵子著作集 2 人間をみつめて』/12月 『ライフ写真集』
1952年の『物理学読本』『量子力学』以来の著者であった朝永振一郎は、神谷美恵子と同じ1979年に亡くなり、1981年11月から『朝永振一郎著作集』全12巻・別巻3 の刊行が始まった。専門論文以外、書簡も含めて収録したこの著作集は、弟子たちの尽力で全国の高校図書館にも納められるようになった。1983年1月、国際共同出版である『写真家マン・レイ』刊行。しかし、これは無念の出版でもあった。前年秋に船便で送られてきた未製本印刷物の数葉の写真に女性のヘアが写っていることで、東京税関は「風俗を害すべき物品と認められる」とし、返却・廃棄・スミの塗抹の選択を迫り、抗議も聞き入れられず、結局、ヘアを黒で四角に塗り消して刊行せざるをえなかった。同書には別冊付録「検閲問題資料」を付けた。この時期、マルク・ブロック、リュシアン・フェーヴルに始まり『アナル』誌を中心に進められていた歴史学の刷新の成果が出始めてきた。1984年にギンズブルグ『チーズとうじ虫』、1985年には「アナル派の総帥」と呼ばれるブローデルの大著『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀』全6冊が、『日常性の構造 1』からスタートする。1972年、1974年の初版のまま長らく品切れになっていたアーレント『全体主義の起原』全3巻を、上製から並製に変えた新装版で刊行したのが1981年、その後アーレント評価が高まるにつれ読者も増え、2017年に新版を出すまで、各巻とも20 刷を超えることになる。同様に、1969年の初版以来品切れのつづいていた『イェルサレムのアイヒマン』も1984年に復刊後は、時がたつにつれて部数の増えるロングセラーとなった。また、1985年には、長らく『フランクル著作集』の第1巻・第2巻として親しまれてきた『夜と霧』『死と愛』がそれぞれ新装版の単行本となり、『夜と霧』(霜山版)は現在もそのまま読まれている。
1981年6月 ボズウェル『サミュエル・ジョンソン伝 1』(全3巻、82年5月・2、83年12月・3)/7月 ホブズボーム『資本の時代 1』(全2巻、82年2月・2)/8月 バルト『文学の記号学』/11月 『朝永振一郎著作集』全12巻・別巻3 刊行開始(1981-85)/12月 メダウォー『若き科学者へ』(2016年7月・新版)
1982年2月 リンゲルブルム『ワルシャワ・ゲットー』/2月 『続・現代史資料』全12巻刊行開始(1982-96)/4月 ソンタグ『隠喩としての病い』/5月 『朝永振一郎著作集 7 物理学とは何だろうか』/6月 『神谷美恵子著作集 3 こころの旅』
1983年1月 セグレ『X線からクォークまで』/1月 『写真家マン・レイ』/4月 バンヴェニスト『一般言語学の諸問題』/7月 『ルドン 私自身に』/9月 サリヴァン『精神医学の臨床研究』/10月 『サン=テグジュペリ著作集』第2次・全11巻・別巻1 刊行開始(1983-90)/12月 アリエス『死と歴史』
1984年3月 『レオナルド素描集成』限定版/5月 アタリ『カニバリスムの秩序』/11月『中村草田男全集』全18巻・別巻刊行開始(1984-91)/12月 プリゴジン『存在から発展へ』/12月 ギンズブルグ『チーズとうじ虫』(2012年「始まりの本」)/12月 レミ『マリア・カラス』
1985年1月 フランクル『夜と霧』新装版/3月 ブローデル『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造 1』全6冊刊行開始(1985-99)/5月 ローレンツ『攻撃』新装合本/5月 フランクル『死と愛』新装版/6月 バルト『明るい部屋』/9月 アタリ『音楽/貨幣/雑音』(95年7月、『ノイズ』に改題新装)/11月 中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』
1986年に『グーテンベルクの銀河系』、1987年に『メディア論』と、マクルーハンの二著を刊行。『メディア論』は版を切らすことなく現在まで読まれつづけているが、刊行時は誰も予想できなかった。ユングの本は、それまで1972年初版の『ユング自伝』(全2巻)だけであったが、この頃からこの国でユング再発見が起こり、みすず書房でも『タイプ論』(1987)、『ヨブへの答え』(1988)を刊行、以後もユングの小著の刊行がつづいた。現在、また新たなユング読み直しの時期に来ているようだ。1990年代、2000年代と多くの読者を獲得していったエドワード・サイードの本は1986年12月刊の『イスラム報道』から始まった。1988年12月には、アメリカのベストセラーで論争を巻き起こしていたアラン・ブルーム『アメリカン・マインドの終焉』を刊行、学問や大学教育のあり方などをめぐってこの国でも話題になり、一年で4万部以上となった。1990年11月には『グレン・グールド著作集』(全2巻)、このピアニストの本は、その後『グレン・グールド書簡集』『グレン・グールド発言集』とつづく。1988年刊、中井久夫訳の『カヴァフィス全詩集』が読売文学賞を受賞。
1986年1月 『クレペリン精神医学 1 精神分裂病』/2月 マクルーハン『グーテンベルクの銀河系』/3月 カッシーラー『カントの生涯と学説』/6月 レヴィ=ストロース『はるかなる視線 1』(88年7月・2)/11月 『ミノトール』全3冊・復刻限定版/12月 シュタイナー『教育術』/12月 サイード『イスラム報道』(2003年に増補版)/12月 サリヴァン『精神医学的面接』
1987年2月 バルジーニ『ヨーロッパ人』/4月 『みすずリプリント』刊行開始/5月 ユング『タイプ論』/7月 マクルーハン『メディア論』/7月 プリゴジン『混沌からの秩序』/9月 クーン『本質的緊張 1』(全2巻、92年7月・2、98年10月・合本『科学革命における本質的緊張』)/11月 ギャンブル『イギリス衰退100年史』/11月 ライル『心の概念』/11月 ジョル『第一次大戦の起原』(1997年に『第一次世界大戦の起原』とタイトルを変え、改訂新版)/11月 ゲイ『ワイマール文化』新訳・改版/12月 ライプニッツ『人間知性新論』/12月 ネルーダ『マチュ・ピチュの高み』
1988年3月 サルダ『生きる権利と死ぬ権利』/3月 ウルフ『自分だけの部屋』/3月 ユング『ヨブへの答え』/5月 アラン『定義集』/8月 ブルデュ『実践感覚 1』(全2巻、90年10月・2)/9月 中井久夫訳『カヴァフィス全詩集』/10月 『下村寅太郎著作集』全12巻刊行開始(1988-99)/11月 ヴェーユ『ギリシアの泉』/12月 ブルーム『アメリカン・マインドの終焉』
1989年1月 ラファエル『災害の襲うとき』/4月 『スカラ/みすず美術館シリーズ』全9巻刊行開始(1989-94) /4月 シャンジュー『ニューロン人間』/4月 朝永振一郎『角運動量とスピン』/5月 エリクソン『ライフサイクル、その完結』(2001年に増補版)/9月 神谷美恵子『うつわの歌』(2014年に新版)/9月 メルロ=ポンティ『見えるものと見えないもの』/12月 パリス『カミーユ・クローデル』/12月 霜山徳爾『素足の心理療法』
1990年1月 ギアツ『ヌガラ』/3月 ボーア『原子理論と自然記述』/4月 サリヴァン『精神医学は対人関係論である』/4月 ソンタグ『エイズとその隠喩』/5月 ルイバコフ『アルバート街の子供たち』全2巻/9月 エリクソン『老年期』(1997年に新装版)/10月 シュトラウス『ホッブズの政治学』/10月 レヴィ=ストロース『やきもち焼きの土器つくり』/11月 アリエス『死を前にした人間』/11月 ペイジ編『グレン・グールド著作集』全2巻/12月 ブローデル『地中海世界 1』(全2巻、92年6月・2、2000年1月・合本)
1991年10月、メイ・サートン『独り居の日記』刊行。この本がきっかけとなり、この国でもサートンのファンが生まれた。その結果、2019年の『74歳の日記』まで、12冊のサートンの本を世におくることになった。この30年でサートンの読者も多様化している。『独り居の日記』は一時は品切れになっていたが、現在は読者の多様化にともない、新たなロングセラーになりつつある。1970年初版刊行時にはほとんど読者のいなかったミラン・クンデラ『冗談』だったが、80年代後半からクンデラの知名度が一気に高まり、1992年に新版で刊行すると短期間で1万5000部以上の読者を獲得した。同じ1992年には、中井久夫のみすず書房初の著書になるエッセイ集『記憶の肖像』を刊行、その後エッセイ集だけでも2013年の『「昭和」を送る』まで8冊に及んだ。その第2エッセイ集『家族の深淵』は、1995年9月、須賀敦子『トリエステの坂道』とほぼ同時に刊行され、その年の毎日出版文化賞を受賞した。その年3月に刊行された中井久夫編『1995年1月・神戸』は、阪神・淡路大震災下の精神科医・看護師などの活動を中心に当事者たちが執筆したもので、震災後二カ月で現地内部の状況を全国に伝えた。1968年の『戦車と自由』以来の緊急出版だった。1994年2月、ノーマ・フィールド『天皇の逝く国で』、1994年4月、長田弘のみすず書房での最初の著書『われらの星からの贈物』、1994年12月、ペンローズ『皇帝の新しい心』を刊行。
1991年1月 池澤夏樹『読書癖 1』(全4巻、6月・2、97年7月・3、99年4月・4)/1月 『コレクション瀧口修造』全13巻・別巻1 刊行開始(1991-98)/5月 ベラー『心の習慣』/6月 カロテヌート『秘密のシンメトリー』/9月 サールズ『逆転移 1』(全3巻、1995年・2、1996年・3)/10月 サートン『独り居の日記』
1992年1月 ヴェーユ『カイエ 4』(全4巻、1992-98)/4月 『アルトー/デリダ デッサンと肖像』/4月 グリーンブラット『ルネサンスの自己成型』/6月 クンデラ『冗談』新版(2002年、文学シリーズlettres に収録)/7月 ビンスワンガー/フーコー『夢と実存』/10月 『INDIA 鬼海弘雄写真集』/10月 中井久夫『記憶の肖像』/10月 メドヴェジェフ『チェルノブイリの遺産』/12月 『ドーミエ版画集成』限定版(全3巻)
1993年2月 ジョージェスク=レーゲン『エントロピー法則と経済過程』/3月 デリダ『他の岬』/5月 クレイグ『ドイツ人』/8月 ニコリス/プリゴジン『複雑性の探究』/8月 グルニエ『チェーホフの感じ』/8月 マッキンタイア『美徳なき時代』/12月 カントロヴィッチ『祖国のために死ぬこと』
1994年1月 『E・M・フォースター著作集』全12巻・別巻1 刊行開始(1994-96)/2月 フィールド『天皇の逝く国で』/3月 コフート『自己の分析』(95年に『自己の治癒』『自己の修復』)/4月 長田弘『われらの星からの贈物』/7月 『ジャコメッティ エクリ』/7月 ウルフ『女性にとっての職業』/9月 アーレント『過去と未来の間』/10月 フェイドン/ビーチャム『インフォームド・コンセント』/11月 モンク『ウィトゲンシュタイン』全2巻/11月 ゴイティソーロ『サラエヴォ・ノート』/12月 ペンローズ『皇帝の新しい心』
1995年1月 藤田省三『全体主義の時代経験』/3月 中井久夫編『1995年1月・神戸』/5月 ファインマン『量子力学と経路積分』(2017年3月・新版)/7月 フュレ/オズーフ『フランス革命事典』全2巻(その後シリーズ「みすずライブラリー」で全7巻、1998-2000)/9月 中井久夫『家族の深淵』/9月 須賀敦子『トリエステの坂道』/11月 ヴァレリー『若きパルク/魅惑』中井久夫訳/12月 サイード『音楽のエラボレーション』
『1995年1月・神戸』(中井久夫編、1995年3月)で浮き彫りになった「こころのケア」やトラウマの諸相は、災害だけでなく、ホロコースト経験者やドメスティック・バイオレンスなどにも共通している。1996年12月に刊行したハーマン『心的外傷と回復』(1999年、増補版)はその全体を描いた書として迎えられ、大著ながら現在まで読み継がれることになった。1997年7月、ハーウィット『拒絶された原爆展』、スミソニアン航空宇宙博物館で企画されながら中止となった〈エノラ・ゲイ〉展示をめぐるアメリカの議論を伝える本書は、元館長である著者の来日で、この国でも新たな視点からこのテーマを考える契機になった。1996年、既刊・新刊を問わない新シリーズ「みすずライブラリー」刊行開始、このシリーズからレヴィ=ストロース『神話と意味』(1996)、スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』(1998)などのロングセラーが生まれる。1998年2月、1996年8月に亡くなった丸山眞男の遺稿を編集した『自己内対話』、同じ年の5月には中井久夫『最終講義』、7月には荒川洋治のみすず書房からの第一作『夜のある町で』、12月にはポスト・コロニアルの金字塔と言われたサイード『文化と帝国主義 1』(全2巻)を刊行した。この頃からオンデマンド出版も始まる。
1996年4月 中井久夫他『昨日のごとく――災厄の年の記録』/4月 矢内原伊作『ジャコメッティ』宇佐見・武田編/9月「みすずライブラリー」刊行開始/12月 ハーマン『心的外傷と回復』/12月 レヴィ=ストロース『神話と意味』(みすずライブラリー)
1997年3月 朝永振一郎『量子力学 II』改版第2版/4月 池内紀『見知らぬオトカム』/4月 『藤田省三著作集』全10巻刊行開始(1997-98)/7月 木田元『哲学以外』/7月 ハーウィット『拒絶された原爆展』/9月 鵜飼哲『抵抗への招待』/9月 ゲイ『フロイト 1』(全2巻、2004年2月・2)/11月 プリゴジン『確実性の終焉』
1998年2月 丸山眞男『自己内対話』/5月 中井久夫『最終講義』/7月 荒川洋治『夜のある町で』/9月 須賀敦子訳『ウンベルト・サバ詩集』/11月 ロールズ他『人権について』/12月 岡本太郎『呪術誕生 岡本太郎の本 1』(全5巻、1998-2000)/12月 スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』(みすずライブラリー)/12月 サイード『文化と帝国主義 1』(全2巻、2001年7月・2)
1999年6月 ウィルソン『フィンランド駅へ』全2巻/12月 中井久夫『西欧精神医学背景史』(みすずライブラリー)/12月 バロー『万物理論』/12月 『辻まこと全集』全5巻・補巻刊行開始(1999-2005)
2000年4月 パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』/7月 モーリス=鈴木『辺境から眺める』/9月 長田弘『一日の終わりの詩集』/9月 『詩人が贈る絵本』全14巻刊行開始(2000-2002)/12月 アーレント『暴力について』(新訳、みすずライブラリー)
2002年11月、それまでの霜山徳爾訳『夜と霧』と並行するかたちで、池田香代子訳による『夜と霧 新版』を刊行。原著の新たな版にもとづき、解説や写真を付けない本文だけの新版を刊行してほしいという著者フランクルの意向もあり、今後の世代に読み継がれるためにも、より読みやすい新訳・新版を出したほうがよいと判断した結果であった。この新版だけでも2021年2月現在48万2000部、新版刊行時には『夜と霧』読書感想文コンクールを実施した。2003年5月、山本義隆『磁力と重力の発見』、著者と同時代を生きた人びとを中心に読者を獲得し、全3巻で1000頁を優に超える決して読みやすい本ではないにもかかわらず、総計で10万部以上になり今も読まれつづけている。同年の毎日出版文化賞および大佛次郎賞を受賞した。2005年6月、シリーズ「理想の教室」刊行開始。大学で自分のしたい、学生に伝えたい授業が現状ではままならず、対面ではないけれども三回の講義を本のかたちで存分にしてもらおうという企画である。亀山郁夫『『悪霊』神になれなかった男』、河合祥一郎『『ロミオとジュリエット』恋におちる演劇術』、加藤幹郎『ヒッチコック『裏窓』ミステリの映画学』、細見和之『ポップミュージックで社会科』、吉永良正『『パンセ』数学的思考』の5点が第1回配本であった。同じくシリーズとして2001年12月、「大人の本棚」もスタートする。
2001年2月 ヤング『PTSD の医療人類学』/2月 サイード『遠い場所の記憶 自伝』/3月 『石橋湛山日記』/4月 北山修『幻滅論』(2012年、増補版)/6月 リード/フィッシャー『ヒトラーとスターリン 上下』/7月 原武史『可視化された帝国』(2011年、「始まりの本」の一冊として増補版)/7月 パトナム『解離』/11月 『ファン・ゴッホの手紙』/12月 「大人の本棚」刊行開始
2002年1月 ル=グウィン『いちばん美しいクモの巣』(詩人が贈る絵本)/1月 『チェーホフ 短編と手紙』(大人の本棚)/2月 サイード『戦争とプロパガンダ』(全4冊)/2月 アーレント『アウグスティヌスの愛の概念』/4月 斉藤道雄『悩む力』/11月 今道友信『ダンテ『神曲』講義』/11月 フランクル『夜と霧 新版』
2003年2月 デリダ『友愛のポリティックス』全2巻/5月 山本義隆『磁力と重力の発見』全3巻/6月 『モンテーニュ エセー抄』(大人の本棚)/7月 ソンタグ『他者の苦痛へのまなざし』/7月 荒川洋治『忘れられる過去』/10月 長田弘『死者の贈り物』/11月 『丸山眞男書簡集』全5巻刊行開始/12月 ホーフスタッター『アメリカの反知性主義』/12月 ウォルツァー『寛容について』
2004年1月 クロスビー『史上最悪のインフルエンザ』/2月 ベルンハルト『消去 上下』(2016年に新装合本)/4月 中井久夫『徴候・記憶・外傷』/7月 『バレンボイム/サイード 音楽と社会』/8月 サートン『82歳の日記』/10月 『神谷美恵子コレクション』全5巻刊行開始/10月 ルドゥー『シナプスが人格をつくる』
2005年6月 「理想の教室」刊行開始/8月 ヒーリー『抗うつ薬の功罪』/9月 クローデル『リンさんの小さな子』/11月 シング『アラン島』(大人の本棚)
2006年4月、レヴィ=ストロースの主著『神話論理』(全4巻・5冊)の刊行が第1巻『生のものと火を通したもの』から始まった。本書の海外著作権を取得したのが1960年代後半、『野生の思考』などを手がけた大橋保夫が当初の訳者だったが、さまざまな意味で難解なこの大著の訳業は進まず、長年にわたりみすず書房の大きな課題だった。訳者も亡くなり、その弟子はじめさまざまな専門分野の先生方が協力して、企画から三十数年たっての日本の読者への提供となった。この頃から、レーン『ミトコンドリアが進化を決めた』(2007)、同じ著者の『生命の跳躍』(2010)はじめ、自然科学の分野の話題作が生まれるようになる。2006年5月、イタリアのデザイナー・作家、ブルーノ・ムナーリの『ファンタジア』、この本もその後ロングセラーとなり、ムナーリの本も次々刊行、この分野の新しい読者の開拓につながった。2009年、ローゼン『ピアノ・ノート』が書評をきっかけに、ムーア/キャンベル『フロム・ヘル』(上下)が挑戦的なプロモーション効果もあり、話題になった。『フロム・ヘル』はアメリカン・コミックで、みすず書房では初めてのチャレンジだった。『朝日新聞』の見出しに「みすずで漫画」の文字が大きく載った。編集部も新たなスタッフが加わり、フレッシュな企画が出はじめていた。
2006年3月 中沢新一『芸術人類学』/4月 レヴィ=ストロース『生のものと火を通したもの 神話論理 I』(全4巻・5冊、2006-10)/5月 ムナーリ『ファンタジア』/6月 服部文祥『サバイバル登山家』/6月 野呂邦暢『愛についてのデッサン』(大人の本棚)/7月 樋口陽一『「日本国憲法」まっとうに議論するために』(理想の教室、2015年・改訂新版)/10月 バルト『ラシーヌ論』(読売文学賞)/10月 ゴードン『日本の200年 上下』(2013年・新版)/12月 ムナーリ『デザインとヴィジュアル・コミュニケーション』/12月 『仁科芳雄往復書簡集 1・2』(全3巻・補巻、2007年・3、2011年・補巻)
2007年4月 北山修『劇的な精神分析入門』/4月 山本義隆『一六世紀文化革命』全2巻/5月 中村圭志『信じない人のための〈宗教〉講義』/7月 『鶴見俊輔書評集成 1』(全3巻、9月・2、11月・3)/8月 鳥飼玖美子『通訳者と戦後日米外交』/10月 ムナーリ『モノからモノが生まれる』/12月 宮地尚子『環状島=トラウマの地政学』/12月 ビナード『日本の名詩、英語でおどる』/12月 レーン『ミトコンドリアが進化を決めた』
2008年3月 ジャット『ヨーロッパ戦後史 上』(8月・下)/5月 『丸山眞男話文集 1』(全4巻、2008-9、2014年から続編4巻も刊行)/7月 外山滋比古『忘却の力』/7月 細川周平『遠きにありてつくるもの』(読売文学賞)/12月 岡真理『アラブ、祈りとしての文学』
2009年3月 『クレーの日記 新版』(2018年・愛蔵版)/4月 ローゼンツヴァイク『救済の星』/7月 『ヒーリー精神科治療薬ガイド』/9月 ローゼン『ピアノ・ノート』/10月 ムーア/キャンベル『フロム・ヘル 上下』(2019年・新装合本)/12月 千田善『オシムの伝言』
2010年2月 斉藤道雄『治りませんように』/2月 ダワー『昭和』/11月 ロス『20世紀を語る音楽』全2巻/12月 レーン『生命の跳躍』
2011年3月11日の東日本大震災の数日後、「医療従事者などに阪神・淡路大震災のときの経験を一刻も早く伝えるべき」との最相葉月さんの発案により、『1995年1月・神戸』(1995)所収の中井久夫「災害がほんとうに襲った時」をテクストデータ化し、最相さんを通じて被災地の関係者などに無料配信、はじめての電子書籍となった。震災から10日足らずのことで、電子出版とネット社会のひとつの可能性を経験することになった。『災害がほんとうに襲った時』の本ヴァージョンも4月には刊行した。8月、山本義隆『福島の原発事故をめぐって』を出版。
2012年3月、エヴェレット『ピダハン』、ほぼ無名の言語学者の本でタイトルだけでは「?」だが、アマゾン奥地に住む少数民族との交流を描いた本書の魅力は大きく、専門とは無関係に現在まで多くの読者を獲得している。4月、バナジー/デュフロ『貧乏人の経済学』、11月、ミラノヴィッチ『不平等について』。この頃から開発系を中心に経済学分野の出版が相次ぎ、みすず書房のひとつの軸になる。2014年2月の会議で「全2巻・各2000部予定で900頁・各4500円・2015年秋刊行予定」で企画の通ったトマ・ピケティ『21世紀の資本』は、その後アメリカで英語版が出るや大反響を巻き起こし日本でもメディアの注目の的となり、同年12月に初版16000部の一冊本として刊行することになる。翌年2月のピケティ来日をピークに格差問題などをテーマに連日のようにメディアが取り上げ、A5判726頁・本体価格5500円の大著がわずか二カ月ほどで10万部を突破した。本の運命はほんとうにわからない。2013年4月から電子書籍の配信を本格的に開始。
2011年1月 國分功一郎『スピノザの方法』/5月 アンニョリ『知の広場』/6月 オンダーチェ『映画もまた編集である』/8月 山本義隆『福島の原発事故をめぐって』/11月 シリーズ「始まりの本」刊行開始
2012年1月 グロスマン『人生と運命 1』(全3巻、2月・2、3月・3)/3月 エヴェレット『ピダハン』/4月 バナジー/デュフロ『貧乏人の経済学』/5月 ツムトア『建築を考える』/11月 ミラノヴィッチ『不平等について』
2013年4月 栩木伸明『アイルランドモノ語り』(読売文学賞)/7月 ガワンデ『医師は最善を尽くしているか』/10月 スコット『ゾミア』/10月 オルデンバーグ『サードプレイス』/12月 ゴールドマン『ノモンハン1939』
2014年6月 ケリー『テクニウム』/6月 ギッリ『写真講義』/10月 ディートン『大脱出』/10月 アガンベン『いと高き貧しさ』/12月 ピケティ『21世紀の資本』
2015年2月 クレマン『動いている庭』/4月 ウォルドロン『ヘイト・スピーチという危害』/4月 『長田弘全詩集』/6月 アーレント『活動的生』/7月 ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』/7月 長田弘『最後の詩集』/8月 ウェイツキン『習得への情熱―チェスから武術へ―』/8月 コイル『GDP』
人はいかに生き、いかに死ぬか。老後はどのように暮らし、どのようなかたちで死を迎えるのがよいか。2016年6月刊のガワンデ『死すべき定め』や、在宅医療の現実をつぶさに描いた2018年5月刊の小堀鷗一郎『死を生きた人びと』は、普遍的かつ切実なこの問いへのヒントとなり、多くの読者に迎えられた。『70歳の日記』(2016)、『74歳の日記』(2019)も、新装版となった『独り居の日記』ともども、メイ・サートンの新たな読者をつくっていった。不平等の問題はじめ民主主義を問い直す本もジャンルや書きぶりを超えて出版された。2017年2月、デュフロ『貧困と闘う知』、4月、ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争』、5月、ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか』、6月、ミラノヴィッチ『大不平等』。さまざまな他者と共に生きる意味を考えた2018年3月刊行のカロリン・エムケ『憎しみに抗って』も共感を生み、エムケの本はその後も続く。75年という節目を通過するみすず書房の本は、これからも続く。
2016年2月 シュトレーク『時間かせぎの資本主義』/6月 ガワンデ『死すべき定め』/7月 今福龍太『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』(読売文学賞)/7月 サートン『70歳の日記』/9月 レーン『生命、エネルギー、進化』
2017年1月 『中井久夫集』全11巻刊行開始(2017-19)/1月 クラーク『夢遊病者たち』全2巻/2月 デュフロ『貧困と闘う知』/3月 グッドウィン/バー『エコノミックス』/4月 ブレイディみかこ『子どもたちの階級闘争』/5月 ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか』/6月 ミラノヴィッチ『大不平等』/7月 橋本明子『日本の長い戦後』/8月 アーレント『全体主義の起原 新版』全3巻、『エルサレムのアイヒマン 新版』
2018年3月 西澤丞『福島第一 廃炉の記録』/3月 エムケ『憎しみに抗って』/5月 小堀鷗一郎『死を生きた人びと』/9月 オーウェン『生存する意識』/9月 梁鴻『中国はここにある』/11月 ゴドフリー=スミス『タコの心身問題』/12月 山内一也『ウイルスの意味論』
2019年2月 三浦哲哉『食べたくなる本』/3月 ビール『ヴィータ』/4月 フランクル『死と愛 新版』/4月 奥山淳志『庭とエスキース』/5月 池内了『科学者は、なぜ軍事研究に手を染めてはいけないか』(毎日出版文化賞)/7月 サザード『ナガサキ』/8月 トゥーズ『ナチス 破壊の経済 上下』/9月 チン『マツタケ』/9月 ルロワ『アリストテレス 生物学の創造 上下』/10月 荒川洋治『霧中の読書』/10月 サートン『74歳の日記』/10月 千葉文夫『ミシェル・レリスの肖像』(読売文学賞)/12月 スコット『反穀物の人類史』/12月 三宅理一『安藤忠雄 建築を生きる』
2020年2月 ヘルマン『スミス・マルクス・ケインズ』/2月 メルラン『オーケストラ』/5月 エリボン『ランスへの帰郷』/7月 富田武『日ソ戦争 1945年8月』/8月 ピレツキ『アウシュヴィッツ潜入記』/8月 山内一也『ウイルスの世紀』/10月 荒川洋治『文学は実学である』/11月 プランパー『感情史の始まり』